2011年5月12日木曜日

「じんかん」という終着駅で

「じんかん」という終着駅で電車を降りた。どうやら「人間」と書いて「じんかん」と読むらしい。人間駅には建家がなく吹きさらしのホームが二本あるだけで、辺りにはススキが多く生え、ホームの両端は背丈ほどにまで達した穂で覆われてしまっている。駅の周囲はのどかな田舎町で、線路が伸びている方向を除き、周囲を黄色い地肌がむき出しの切り立った崖に囲まれている。
ホームを降りると駅員らしき男に話しかけられた。
「何もないところでしょう」
―― いやそんなことは
私はこの町に好感を抱いている。

駅員は町を案内してくれるという。
晴天のもと、黄色い崖を脇目に坂道を登っていく。どうやら崖の上は平地になっているらしく、建物が散在しているのが見て取れる。
三方の崖上それぞれにひときわ大きな建物が目に入る。
白い日本風の城。灰色の西洋風の城。青いキリスト教の聖堂。
「どれに行ってみたいですか」
と聞かれたので、私は青い聖堂へ、と答えた。
「そうですか」
駅員の応えが聞こえたが、その姿はどこにも見あたらなかった。

気が付けばとある建物の中。6畳ほどの広さの部屋に椅子が置いてあり、猫がふんぞり返った人間のような姿勢で座っている。
写真を撮ろうと手にしていたカメラのファインダーを覗くが、猫は気に入らないらしく仕草で難癖をつけてくる。その姿が微笑ましくて、飽きることなくカメラを向けていた。
シャッターはついに一度も切らなかった。

(2011.05.11 夜)

0 件のコメント:

コメントを投稿