友人の家で見たその植物の名前はハナミズキというらしい。鋭い棘で覆われたゴボウのような容貌で、自分の知っているハナミズキとは似ても似つかないが、彼女はそう言い張って聞かない。面白いものを見せてあげる、と言い彼女はハナミズキの枝をひとつ落とし、その断面にまったく別の植物の枝を押し当ててた。するとハナミズキの断面から白い糸のようなものが何本も伸び、その押し当てられた枝をあっという間に覆い尽くし採り込んでしまった。
私は恐怖に駆られるが、彼女はにこやかにハナミズキを見つめている。まあ休みなよ、と促されコタツに横たわっていると、ハナミズキはゆっくりと私の方へその身を伸ばしてくる。恐ろしくなりコタツから這い出ると、もう彼女の姿はなく、かわりに見覚えのない4人の男女に囲まれていた。
彼らはハナミズキの所有者たる彼女とは旧知の仲なのだという。部屋から連れ出された私は、広い草原を歩きながら、彼らから彼女が虚言癖の持ち主なのだと聞かされる。
私にとってはそんなことはどうでもよかった。ただあの植物をなんとかしなければ、とばかり考えている。
気をつけてね、と言い残し去って行った彼らを見送ってから、私は草原をあてもなく歩き海岸沿いに建つ民家までやってきた。
その民家の周囲にはこれまた奇妙な植物が生い茂っている。たくさんの節のついた黄土色のレンコンの先端に焦げ茶色の瓜が4つくっついているようなグロテスクな姿をしたその植物は、絶えず蠢いては地面の芝生をついばんでいる。
――食っているのか?
まるでパワーショベルのアームのように、ゆっくりとした動きで芝をついばむ姿を部屋の窓から覗き背筋を凍らせていると、背後の襖が開き、家の主人がやって来た。
「あれはハナミズキですよ。成長するとああなるんです。」
と主人はにこやかに窓の外を指さしながら言う。
「人もね、食べるんです。でもゆっくりとしか動けないから、大丈夫、逃げられますよ。」
そう言って主人は奥の部屋へと引っ込んでしまった。
冗談ではない。早くここから離れなければ。
踵を返して外へ出ようとしたその時、周囲のハナミズキが一斉に白い糸を全身から垂らし始めた。ゆらゆらとたなびく真白なカーテンに囲まれ、次第に恐怖よりも美しさへの感動が勝り始める。
(2011.06.06 夜)
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